宝塚の長い歴史の中でも非常にイレギュラーな活躍をしたのが、元専科スターの凪七瑠海(なぎな るうみ)さんではないでしょうか。
宝塚歌劇団に首席で入団していきなり注目を集めますが、その後の波乱万丈ぶりはなかなかのものでした。
トップスターではないけどただのスターでもない、非常にユニークな存在だった凪七瑠海さん。
その独自の活躍ぶりを一気に振り返っていきたいと思います!
凪七瑠海:退団!男役?娘役?イレギュラーな存在感!
凪七瑠海さんは、いわゆる「路線スター」。「路線スター」と一時期でも呼ばれたタカラジェンヌたちは、入団20年目を待たずに退団していくことがほとんどです。
トップスターにならずとも芸能界で活躍する人材として、早めに外の世界へ……という人も多くいます。
凪七瑠海さんもずっと路線スターとして活躍してきたタカラジェンヌでしたが、入団20年を過ぎても第一線で舞台に立っていらっしゃいました。
その時点で既に「イレギュラー」なわけです。
凪七瑠海さんは線の細さや可愛らしいお顔立ちから、女役も多く務めてきました。その印象か、「凪七瑠海=娘役」という認識を持っている人もいるようです。
しかし、最後まで「男役」であることにこだわりを持った、正統派の男役です!
男役でありながら、美しい女役も自然い楽々こなせてしまうという意味でも「イレギュラー」な逸材。
ここまできたらもう、かつての轟 悠(とどろき ゆう)さんのように、「トップオブトップ」として劇団を牽引する立場になられていくのだろう、とファン一同は思っていたところ……
「2025年1月に退団」というニュースは宝塚ファンを驚愕させました!
凪七瑠海:宝塚何期?同期は誰?
凪七瑠海さんは2003年、月組公演『花の宝塚風土記/シニョール ドン・ファン』で初舞台を踏んだ89期生になります。
89期生といえば、「大豊作の期」として非常に有名な学年です。
トップに就任できたのは以下の3名。
- 明日海りお(あすみ りお)/元花組トップスター
- 望海風斗(のぞみ ふうと)/元雪組トップスター
- 夢咲ねね(ゆめさき ねね)/元星組トップ娘役
惜しくも一歩届かず、「路線スター」まで歩を進めることができた生徒は9名にものぼります!
同期同士も非常に仲がいいことで有名で、「89期ブランド」と言っていいほど宝塚ファンの中では一目置かれた学年になります。
そのすごいメンバーの中で堂々たる首席が、凪七瑠海さんというわけです。
「スターの登竜門」と言われる阪急電車の初詣ポスターのモデルにも抜擢され、大注目を浴びて宝塚歌劇団に入団しました。
凪七瑠海:本名は?年齢は何歳?芸名や愛称(あだ名)の由来は?名づけ親は?華僑?
凪七瑠海さんの生年月日は、1984年11月11日。本名は高 エリ花(こう えりか)さん。
珍しい「高」という苗字は、凪七瑠海さんのルーツにヒントがある気がします。
その項目については後述しますね。
愛称は「えりか」「かちゃ」。タカラジェンヌたちやファンのほとんどは「かちゃさん」と呼んでいました。
たぶん「えりかちゃん」→「かちゃ」に進化したのではないでしょうか(^_^)
芸名の名付け親は、在日華僑の作家・陳舜臣(ちん しゅんしん)さんだそうで、「瑠海」はイランの有名な詩人の名前がヒントになっているそうです。
この「在日華僑」というのが、先ほどお伝えした凪七瑠海さんの珍しい本名と関わりがある可能性があります。
華僑とは、中国にルーツを持つ在日人のこと。先祖が中国大陸から日本に渡ってきて、日本でコミュニティを作っています。
家族的なつながりが大変強く、凪七瑠海さんの名付け親となった陳舜臣さんのように、知識階級も含めた各分野にスペシャリストが揃っているイメージです。
中国大陸全般のことを指すので、中国系の華僑と台湾系の華僑がいるようです。
陳舜臣さんが台湾系華僑ですので、きっと凪七瑠海さんも台湾系華僑の繋がりがあるのではないでしょうか。
凪七瑠海:台湾と関係が深い?
じっさい凪七瑠海さんは、舞台挨拶でも中国語を披露したりしていますし、親族は外国語ができる人が多いとも語っています。
外国人のDNAを持つタカラジェンヌはそれほど珍しくはなく、ここ数年は毎年のように外国にルーツがある人が入団しますし、トップスターになった方々もいます。
元星組トップスターの安蘭けい(あらん けい)さんは韓国系、同じく元星組トップスターの鳳 蘭(おおとり らん)さんは中国系であることを公表しています。
韓国も中国も台湾も、日本のお隣ということで、海を渡って日本にやってきた人たちが古来からたくさんいます。
宝塚歌劇団は台湾公演を近年では3回行っています。
- 2013年 星組
- 2015年 花組
- 2018年 星組
この3回とも、凪七瑠海さんは出演はしていませんが、なぜかこれらの年は凪七瑠海さんにとって大きな節目となっています。
台湾公演を行うにあたり、台湾系華僑の凪七瑠海さんが何か影での力添えをしたのでしょうか……?想像の範疇を出ませんが。
凪七瑠海:歌唱力・ダンス・芝居の実力は?エリザベート役って?
大勢のスターを輩出した89期生の首席である凪七瑠海さん。
もちろん歌もダンスも芝居もハイレベルなものをお持ちです。
華やかなビジュアルも備えていますので、どう見てもエリート一直線だと誰もが思っていましたが……
入団7年目から、非常に独特な抜擢人生が始まります。
一般的に、トップスター候補として育てていく予定の生徒はまず、新人公演の主演がその第一歩となります。
そこからバウホール公演の主演を勝ち取り、衣装の装飾が増えて羽根を背負うようになり……とトップへの階段を昇っていきます。
凪七瑠海さんは当時、新人公演のラストイヤーである入団7年目になってもまだ主演に抜擢されていない状態でした。
「このまま路線スターになれずにいくのかな」と宙組ファンが思い始めていた頃。
突然月組公演の『エリザベート』のエリザベート役に大大大抜擢されます!!
当時、凪七瑠海さんは宙組生です。宙組公演でもなく、新人公演でもなく、娘役でもないのに、いきなり本公演のヒロイン。
しかも、タイトルロールでありつつ、超人気公演の『エリザベート』です!!エリザベート役なんて、娘役のほとんどが憧れている、大役も大役です。
正直、当時の月組ファンにとっては「凪七瑠海??だれだっけ???」状態でした。
確かに娘役を務められるほどのスレンダーな体型ですし、お顔立ちもキュートですが……。
まだ何の実績も残していない名もなき新人が、あの「エリザベート役」を演じることに、ヅカファン界隈は相当な動揺がありました。
きっとご本人がいちばん動揺していらっしゃったことでしょう。
凪七瑠海:なぜエリザベート役に??ひどかった?よかった?
当時の月組にエリザベート役が似合うような貫禄のある、美貌の娘役が不在だったという背景もあったのでしょう。
そして当時の月組トップスター、瀬奈じゅん(せな じゅん)さんにどうしてもトート役をやらせたかった劇団の思惑もあったのでしょう。
演出の小池修一郎先生は会見で、瀬奈じゅんと釣り合う顔の小ささが決め手だったようなことを言ってましたが……。
だからといって娘役でもない、大きなドレスなど着たこともない、新人の凪七瑠海さんをエリザベート役に、というのはあまりにも賭けだったように思います。
ドレスのさばき方や扇子の持ち方は、同期で新人公演ヒロインの羽桜しずく(はざくらしずく)さんに手とり足取り習ったとか!
結果は、「賛否両論」といったところでしょうか。
そして、その大役を務めあげた直後、最後の新人公演でようやく主演の実績がひとつつき、その直後にバウホール公演の主演も1作品決まりました。
まるで「エリザベート役を全うしたご褒美」とでも言うように、バタバタと路線スターコースが整備されていったのも、良くも悪くもファンの注目を集めました。
劇団からのあまりのムチャぶりに、根性で応えた凪七瑠海さんはとても立派でした。
しかし、歌唱面、芝居面では、路線スターと呼ぶにはちょっと物足りないかな、という部分はあったように思います。
学年を重ねるにつれて経験値がついて芝居勘や貫禄は出てきましたが、「飛び抜けてこれが上手い」というタイプではないように感じました。
ただ、宝塚の特長は「魅力的であること」です。
芸事が上手ければそれでいいわけではないので、清潔感があって品のある正統派男役だった凪七瑠海さんは、紛れもなく「ザ・宝塚スター」でした。
凪七瑠海:宙組⇒月組⇒専科へ組替え
宙組で新人公演主演1回、バウホール公演主演1回という実績がいっぺんについたら、またしばらくは主演から遠ざかる時期が続きます。
これもまた「エリザベート役のご褒美」感を強めてしまいました。
やっぱり路線スターではない……?と思っていたところに、月組への組替えが発表になります。
エリザベートのときに支えてもらった月組生のところに行くのは多少安心感があったかもしれません。
しかし、当時の月組には同期生の美弥るりか(みや るりか)さんが凪七瑠海さんと同じような立ち位置で活躍していました。
美弥さんも凪七瑠海さんと同じ、新人公演主演は1回です。
もうひとつステップアップしてほしい同期生を敢えて一緒の組にして切磋琢磨させる方策は、劇団がたまにとる作戦です。
2人はシンメトリーのように、月組で共に活躍し続けました。2014年には2人でW主演として別箱公演も行っています。
しかし、凪七瑠海さんが2017年に再び組替えとなってしまいます。しかも、異動先は専科。
この組替えの意味は……?とファンにまた大きな動揺が走ります。
トップスターになる可能性が無くなったのか、それとも……?
その後の活動を見ていくしかありませんでした。
凪七瑠海:専科や外部で活躍 香取慎吾さんとも共演!宝塚時代の代表作やエピソードは?
専科生の強みは、5組全てに出演できるところです。今まででは見られなかった共演が見られる、という点には期待が集まりました。
しかし、古巣だった宙組・月組には結局最後まで出演しませんでした。
ご本人の気持ちを考慮したのか、宙組生・月組生の気持ちを考慮したのか……?
専科になってから、主演公演もいくつかありましたし、2023年には星組の全国ツアーで主演を務めました。
香取慎吾さん主演の『テラヤマキャバレー』という作品に外部出演もしています。
「あれ……?やっぱりトップの可能性は残っている?」ともとれる実績を積んでいきました。
とはいえ、学年はもう入団20年目を超えていましたので、そこからトップに就任するのはさすがに、と思っていたところに退団発表。
専科スターとして宝塚を支え続ける道ではなく、卒業という道を選ばれました。
22年という長い宝塚人生の中で多くの役を演じられてきましたが、中でも好評だったのは、専科に異動して最初の別箱主演作品『蘭陵王(らんりょうおう)』だったように思います。
凪七瑠海さんのルーツと同じ、中国の王のお話ですし、凪七瑠海さんにとてもよく合った役柄でした。
公演は花組でおこなわれ、ヒロインは若手超実力派の音くり寿(おとくりす)さん。小顔のおふたりで相性もぴったりでした。
凪七瑠海:実家はお金持ち?父は声楽家!マリウス葉とは親戚?
凪七瑠海さんといえば、その豪華な家系図もよく知られているところでした。
身内にタカラジェンヌが多く、燁 明(よう あきら)さんという元星組の男役さんは凪七瑠海さんのいとこになるそうです。
そしてその燁さんは、元Sexy Zoneのマリウス葉さんのお母様です。
凪七瑠海さんのお父様もまた有名人で、声楽家の高 丈二(こうじょうじ)さんという方です。
歌のうまさはお父さま譲りでしょうか。調べるとお父様の旧名は黄耀明とあるので、やはり華僑にルーツのある方のようです。
マリウス葉さんの親戚を辿っていくと鳳 蘭さんもいらっしゃいますし、「華麗なる一族」といった感じですね。
凪七瑠海さんの名付け親である作家の先生や、お父様の職業などを見てもわかるように、華僑の皆さんは芸術方面や経済界でも著名な人が大勢いらっしゃいます。
舞台挨拶やトークなどでも、おっとりと上品な話し方でいかにもお育ちがよさそうです。
タカラジェンヌには良家の子女が多いのは有名ですが、凪七瑠海さんもまさにそのうちの一人でしょう。
凪七瑠海:退団後はマリーアントワネット役『1789』!舞台やテレビの出演作は?結婚は?事務所はどこ?
タカラジェンヌの中でもかなり独自の活躍をされた凪七瑠海さん。
退団後ももちろん、引き続き舞台に立っていかれるのだろうと思っていました。
退団後は少しの休息期間のあと、まずはコンサートやディナーショーを開催するのが一般的です。
しかし、ここでも凪七瑠海さんは型破り!
まだ宝塚在団中に、退団後の出演舞台が『1789』で、マリーアントワネット役を演じることが発表されます!
『1789』は宝塚の座付き演出家である小池修一郎先生が手掛ける大人気作です。
きっと在団中に小池先生が凪七瑠海さんに直接オファーをしていたのでしょう。
エリザベートとマリーアントワネットは、美貌の悲劇の皇后として多くの舞台作品に登場する二大巨頭です。
そのどちらも演じることができる役者は、それほど多くいません。
しかも、凪七瑠海さんはトップスターではありませんでした。もっと言うなら、2番手スターでもありませんでした。
番手のあるスターではなかったのに、退団後一発目の出演舞台が大人気作の『1789』であり、しかも大役・マリーアントワネット。
これは本当に異例中の異例ですし、もはや偉業と言えるでしょう。
退団後もやっぱり独自の活躍をされていくようですね。
退団してから、所属事務所も発表されていませんし、SNSなども一切開設していません。
ここも、ほとんどの宝塚OGはまずSNSのアカウント開設でファンに挨拶をするところからスタートするので、凪七瑠海さんらしいなというところです。
ちなみに、退団してまだ日が浅いので、もちろんご結婚の発表などはありません。
このままフリーとして舞台中心に活動されていくのか、そして告知などはどういうルートで行っていくのか、大注目です。
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